2011/07/20

「好きでやっている」ことと「報われる」こと

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「好きでやっている」が,マイナーであり簡単ではないことに従事している人たちは「報われない」,という事象に対して,「報われる」ようになったら,その人たちはその好きでやっていることを続けられなかったかもしれない,というちょっと逆説的な推論.


1. 背景
以下のまとめを読んで,たしかに,結果だけでなく過程にもきちんとスポットライトが当たり,ひたむきに生きている人が報われるようになれば本当に良いなあと思いました.

なでしこ優勝の裏側で…

特に重要なのは,この事例は,他のマイナースポーツ,芸術,研究とかにも通じることでしょうか.これらに従事する人たちは,地道に挑戦を続けていても,「報われる」わけではなく,社会の中では「つらい」思いをすることになってしまう.もしうまくいって注目されても,その注目はあっという間に消費されて,あとは以前と同じに戻ってしまう.

では,もっと間口を広げて,支援を厚くして,挑戦をつづける人や地道にやっている人が「報われる」仕組みをつくればいいのか?と考えたところが,このエントリの出発点です.結論から言うと,この仕組みが本来の目的の達成しつづければいいけれど,私は,それは困難じゃないかなと思いました.


2. パイが大きくなるほど競争は無慈悲になっていく
なぜ困難だと思うのか?
…それは,間口を広げて普及させたあとにはコモディティ化が待っていると思うからです.つまり,「簡単ではないこと」であり,ベネフィットの絶対値が小さいからこそ,参入者が少ないため無慈悲な競争がおこらず,好きなことしたいことができている側面もあるかもしれない,ということです.ニッチな対象を攻めることは,それ単独で立派な優位性となります.

しかし,もし対象が「簡単なこと」になり,得られるベネフィットの絶対値も大きくなったらどうなるか?おそらく参入者が増加して熾烈な競争が生じるのではないでしょうか.その分野に従事しているのが世界にひとりだけなら,自分は間違いなく1番になれます.でも,それが100人だったら?10000人になったら?…パイ自体の大きさも増加するかもしれないけれど,その分野がメジャーになるほど,したいことに挑戦する者ではなく,したいかしたくないかに関わらずそれができる者,に優位性が移っていく.つまり,卓越した熱意ではなく,卓越した能力に,基準が移っていくように思います.(一般に,熱意と能力のあいだには正のフィードバックがはたらくようにも思いますが.)

そして,もっとパイが大きくなって,もっと参入者が増加すると,ある分野では,熱意・能力だけではどうしようもない側面が強調されていくことすらあるようにも思います.戦略的かつ徹底的に大規模な財力や専門性を投下できる者がパイをさらっていくようになってしまうわけです.こうなってしまうと,もはや熱意や能力があるかはほとんど関係なく,「報われてきた者」がさらに報われるという,まったくもって無慈悲な競争になってしまいます.(目的が,それをやることから,「報われること」に移っていくのかなと.)


3. だからといって支援が必要ないわけではない
もちろん,2の推論は,だったら地道にやっている人たちへの支援は必要ないとか,現在ニッチな分野で成果をあげている人たちは実は大したことないとか,そういう結論へ短絡的に結びつくわけではありません.選択および支援における自由と多様性をどれだけ担保できるかが,社会の福利の度合いをはかるひとつの目安になるのかなと個人的には思っています.また,ニッチな分野で挑戦を続けつづけるのは,誰にでも簡単にできることではないでしょう.


4. 結論
もし2の推論が真ならば,マイナーであり簡単ではないがやりたいことは,だからこそやってみる価値もあるのではないかということになります.現状の社会では,いろいろな「好きでやっていること」は十分に「報われていない」状況です.しかし,みんながやらないから間口も狭く,ベネフィットの絶対値も大きくはないけれど,だからこそ「好きでやっている」状態をつづけられる可能性も高いかもしれない.そんな風にも言えるかもしれません.


0. 注意
このエントリは,決して,誰かを誹謗中傷するために書いたものではありません.
また,「報われる」という言葉をどう定義するかによっても,話は大きく変わってくると思います.ここでは,社会的金銭的に評価されるという意味あいで「報われる」という言葉を使っています.(私は,それだけが報われるということではないと思っていますが,あくまで便宜的に.)
それと,福利厚生のような,結果が積極的に「報われる」ことには結びつかないものに関しては,上記の推論をそのままあてはめることはできないようにも思います.

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