2012/02/03

鶏を絞める

このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク
友人の紹介で,先週の日曜日,鶏を絞めるワークショップに参加してきました.
詳細は,過去のものですが,以下の記事などご参考に.

生まれて初めて、鶏を絞めた日。 - ちはるの森

主催は上記の記事を書かれた chiharuh さん.場所は千葉の九十九里浜にほど近い FARM CAMPUS.参加者は30名以上で,冬の風が強いけれど,よく晴れた日曜日でした.

散歩

まず,集合場所の上総一ノ宮駅に,個人的に,1時間早めに着いて,海まで散歩に行きました.

風が強くて,思ったより遠くて,砂が目に入って涙がでてきたり….


様子

前置きはこれくらいにして,本題に移ります.
今回は,希望者がグループになって,2 + 1羽を締めました (どういう手順で何をするか,などは,上述の記事を参照ください).
私は,最初のグループで,気絶した鶏のクビを切り落とす役目に.

最初はこんなふうに抱えられていた鶏が,

最後はこんなふうに.

途中の写真は,撮る余裕があまりなかったのと,(1枚だけあるのだけれど) 苦手な人もいると思うので,省きました.

思ったこと

それで,以下が感想.
当日の夜,家に帰ってきて,一度に書いた文章をそのまま載せることにします.
(注に示した統計の部分は次の日に調べましたが)

-----

クビを切り落とすとき,命をいただくという思いはあまりなかった.感触は,スーパーで買ってきたかたい肉を,包丁でゴリゴリと切断するような感じ.でも,スベリ止めのついていない軍手の表面で,包丁が安定しなかった感覚が,印象にのこっている.すみやかに切り落とさないといたずらに苦しませてしまうかもしれないと,すこし焦ったのも覚えている.

内蔵を取り出すとき,まさに人肌 (トリ肌?) の温度くらいにあたたかかった.気持ち悪さはまったくなくて,スーパーで買ってきた冷えた肉を包丁で切っているときのほうが,むしろ違和感を感じるくらい.

中学校で解剖をしたとき,ニワトリの内蔵はとにかく臭かった (本当に臭かった!) 記憶があるのに,嫌な匂いがまったくしなかったのも印象的だった.おそらく鮮度で差が出ているのと,シェフの kooichi さんいわく,餌でも違うそうな.

それと,砂肝が本当に「砂肝」だったのには感心.切ると砂利や砂が出てきて,なかには写真のように大きなものもあった.擦れたためか表面はつるつるになっている.

いただくと,歯ごたえがあって.脂も嫌な匂いがなくて,とてもおいしい.内蔵は新鮮で,皮も,脂の塊のようなものとはまるきり違って,結合組織の歯ごたえをきちんと感じられる「皮」だった.

普段食べている市販のものと比較してみて,大きな違いは3つあった.大きさと,脂と,かたさ.

まず,両手で抱えるくらいの大きな鶏なのに,とれた胸肉は市販のものの半分程度の大きさだった.スーパーで売られている鶏肉の主は,いったいどのくらい大きいのだろう.解体されてパック詰めされた「肉」としての鶏は見ているけれど,生きている「ニワトリ」としての鶏について,いかに知識がないかを思った.日々食べている肉なのに,それが,どんな風に生きてきた,どのくらいの大きさの鶏からとられたか,見当もつかないなんて.

脂は,内蔵にはたくさんついていたけれど,肉にはあまりついていない.スーパーでパックに入って売られている鶏肉の,あふれんばかりの脂,あれはいったいどこから来たのだろうと不思議になってくる.そして,味もわりと違って,気分が悪くなるような脂の匂いが,こちらの鶏ではあまりなかった.

そして,歯ごたえ.味のしみでてくる肉をきちんと噛んでいる感じがした.市販の肉のやわらかさと比べるとあまりに違いが大きくて,味は鶏肉だけれど,食感はまるきり違うものを食べているような.しかし,どうしてこの肉がこんなにかたいのかとは思わなくて,普段食べている肉はどうしてあんなに不気味なほどやわらかいのかと思った.それほど市販の肉には歯ごたえがないのだということを,比較して,はじめて知った.

それで,この文章を書きながら考えているのは,こうしたブラックボックス化された,途方もないシステムをつくりあげた人間のこと.

平成21年のデータをもとにちょっと調べて計算してみると,1日に屠殺されている鶏の数は,日本のブロイラーだけでも24450羽にのぼる ※1.…24450羽!おそらく決して,すべり止めの付いていない軍手で一羽一羽解体されているわけではなくて,多くの人は知らないシステムが,顔の見えない無数の鶏を,パック詰めされた肉にして,私たちの食卓に運んでくる.私たちはブラックボックスの中身を知らなくても鶏肉を食べることができるし,そうしてシステム化されているからこそ,これだけ安価で大量の鶏肉が供給されているという側面もある.

でも,会社帰りにスーパーで買えるのは,システムの生産物である「トリムネ肉」ではあっても,この手で絞めた「ニワトリの胸の肉」ではない.そして同じことは,鶏だけでなく,豚や牛にも言えるだろうし,野菜,乳製品,加工食品…すべての食物にも言えるのだろう.

ヒトは「自然な」食生活をすべきだというつもりはまったくないし (「自然」の定義は置いておいても,それを現代のようなこれだけの規模にスケールすのはまず無理だろうし),私はこれからもスーパーで「トリムネ肉」を買うことだろう.でも,自分の買って食べている「トリ肉」や「食べ物」が【いったい何なのか】に無自覚であることは,おそろしいことでもあるんだなと,理解することはできた.

-----

というわけで,そんな日曜日でした.忙しく駆け回られていたちはるさん (もうすこしお話したかった!),設備から雰囲気まで気を回してくださったFARM CMAPUSスタッフのみなさま,おいしい料理をつくってくださったシェフのおふたり,他の人のお皿まで洗ってくださったり,焚き火やストーブで暖をとりあったりしていた参加者のみなさまに,いろいろと感謝です.

最後に

このエントリを書いてから,『ドキュメント 屠場』 (鎌田慧, 1998年, 岩波新書) という本を読んで,また考え込んでしまった.確かな技術をもとに人々の食卓を支え,誇りを持って仕事をされていると場の職人さんたちの姿がいきいきと描かれていて,上に書いた文章が恥ずかしくなってしまった.

しかしそれでも,途方もない食物供給システムや,と場ではたらく職人さんたちの姿が,私の日常からはブラックボックス化されていた,という事実に変わりはない.私の視野が狭かっただけなのか,「意図的に」隠されていたのか,定かではないけれど,そうした現実を知らなかったということに気づけた点は,大きな収穫だった.


※1 データは以下の統計から.
平成21年 個別経営の営農類型別経営統計 (経営収支) - 農林水産省 農業経営統計調査
平成21年のブロイラー養鶏経営体が48,1経営体あたりのブロイラー販売羽数が185928,48かける185928を365で割って1日あたりの販売羽数を計算すると,24450.81となる.…間違いがあったらご指摘くださいませ.

0 件のコメント:

コメントを投稿